肝障害の報告は全薬物中4.7 %で、多い順に小柴胡湯、柴苓湯、葛根湯と続く。一般に、発症までの期間は、1 ヶ月以内44 %、3 ヶ月以上29 %とやや長い症例がある。初発症状は、黄疸、全身倦怠感、腹部症状などであるが、アレルギー症状や白血球・好酸球の増多を伴う者は少ない。1999年の全国調査では、肝細胞障害型53.9 %、混合型35.0 %、胆汁うっ滞型11.0 %で、DLST 陽性率は51.3 %であった(表2)。最近の報告では、DLST陽性率が非常に高率とのことで、診断に用いるのに注意を要するとされている。特にリンパ球幼若化活性をもつ薬物の場合に注意を要する。
○ 小柴胡湯
サイコ、ハンゲ、オウゴン、タイソウ、ニンジン、カンゾウ、ショウキョウを含む合剤であり、慢性肝炎などにも用いられる。肝障害発症時に発疹、発熱などのアレルギー症状を伴うものが無く、正確な発症機序は明らかでない。発症は0.64%(2,495 例中16 例)、発症までの期間は8週未満と8週以上が共に9 例であった((株)ツムラ資料、1998.9)。1999 年の全国調査ではDLST 陽性率は17 例中9 例と高率であった(表2)。
マウスと滑液包炎の配置
<代謝性疾患用剤(糖尿病・高脂血症用剤)>
1999 年の全国調査にて、肝障害の報告は全薬物中3.5 %で、多い順にトログリタゾン、アカルボース、ボグリボース、グリベンクラミド、エパルレスタットと続く。臨床型では、肝細胞障害型が53.7 %、混合型が25.9 %、胆汁うっ滞型が14.8 %、劇症肝炎が多く5.6 %で、DLST 陽性例は20.5 %と低率であった。トログリタゾンのような代謝性特異体質による肝障害が多く含まれたため、アレルギー症状を欠くものが多かったと思われる。
○ アカルボース
α-グルコシダーゼ阻害剤で、糖尿病治療に用いられ、重篤な肝障害が10,000 人に1~2 人の頻度で報告されている。1999 年の全国調査ではDLSTは施行7 例全例で陰性であった(表2)。2000 年に戸田らが1993 年12 月~1998 年6月に集計した125 例について検討しているが、それによると、発症は女性に多く(62 %)、しかも女性に重篤例が多かった(72 %)。発症年齢は男性59.0 歳、女性59.9 歳と中高年。症状は、倦怠感/疲労感、黄疸、掻痒、食思不振など、アレルギー症状(発疹1 例、発熱2 例)や好酸球増多(6 例)を認める者は非常に少ない。薬物服用後4 週以内の発症は10~20%、1 年以内の発症は98 %で、残りは1 年を超えて発症している。重篤例では、12~20 週での発症が全体の25 %と最も多く、投与量と肝障害の関連は認められていない。彼らは2 例の劇症肝炎死亡例を認めている。以上を総合すると、アレルギー性肝障害というよりも、代謝性特異体質に起因して肝障害が発症するものと考えられる。
軽度のうつ病の症状
<その他>
1999 年の全国調査にて、痛風・高尿酸血症用薬(0.7%)、呼吸器用薬(0.4%)、免疫抑制剤(0.4 %)、泌尿・生殖器用薬(0.2 %)、骨代謝改善薬(0.1 %)、ホルモン薬(4.6 %)、抗アレルギー薬(3.7 %)、ビタミン薬(0.8 %)、一般用医薬品(5.8 %)などが、肝障害を起こし得る。臨床型では、肝細胞障害型が46.4 %、混合型が32.5 %、胆汁うっ滞型が19.6 %、劇症肝炎が多く11.4 %で、DLST 陽性例は施行例中32.1 %で陽性であった。
○ アザチオプリン
免疫抑制剤として腎移植後などに使用されている。グルタチオンS-トランスフェラーゼで代謝されると6-メルカプトプリンとなる。6 ヶ月~5 年の使用後に発症するが、男性の腎移植患者や、SLE などの基礎疾患を持つ患者に発症リスクが高い。全身倦怠感、関節痛、発熱、腹痛、食思不振、嘔気、嘔吐、下痢、体重減少、掻痒感、黄疸などを来たし、進行すると腹水、食道静脈瘤、肝脾腫、凝固障害などを認める。肝組織像に特徴があり、peliosishepatis、類洞閉塞症候群、結節性再生性過形成(nodular regenerativehyperplasia [NRH])がみられる。
膝の後ろの痛みsquating
○ ザフィルルカスト
2001 年から発売されているロイコトリエン受容体拮抗薬で、気管支喘息治療に用いられる。一過性にトランスアミナーゼ上昇を来すが無症状で、使用継続しても一般には3 ヶ月以内に正常化する。しかし、3 ヶ月~18 ヶ月の継続投与の間に、稀に(0.1 %未満)顕性の肝障害を来たし、その1/3 は重症化する。劇症肝炎死亡例も報告されている。重症化例にはザフィルルカスト1日投与量が40 mg よりも80 mg の患者が多い。肝障害は圧倒的に女性に多く、また40 歳代以降の中高齢者に発症している。アレルギー症状を伴う症例は非常に少ない。これらから代謝性特異体質に起因する発症の可能性が強い。ザフィルルカストはCYP2C9 によりメチル水酸化を受けていくつかの肝毒性のある中間代謝物へと代謝されるとされており、一般にCYP 活性が女性に高いことが指摘されている。
○ 経口避妊薬(エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤の合剤)
服用中の女性に胆汁うっ滞型の肝障害を来すことがある。黄疸と掻痒感を認め、ビリルビンは上昇するがALP 上昇は軽度、γ-GTP は正常値に留まるものが多い。これは、エストロゲンによる肝細胞毛細胆管側膜上のトランスポーター(MRP2、BSEP)の阻害によると考えられる。また、長期(数ヶ月~20 数年)の服用後に肝の限局性結節性過形成(focal nodularhyperplasia [FNH])、腺腫、肝癌を発生することがある。また、エストロゲンは肝由来の凝固因子を増加させるため肝静脈血栓症を惹起することがある。
○ ジスルフィラム
アセトアルデヒド阻害薬で抗酒精療法に用いられ、肝障害は服用開始後1~24 週に出現する。肝細胞障害型を呈するものが多く、アレルギー症状は少なく、代謝性特異体質による発症の可能性が強い。
○ 蛋白同化ステロイド
男性ホルモン作用は弱く、再生不良性貧血などに使用される。C17 アルキル化ステロイドで、軽度のトランスアミナーゼ上昇や胆汁うっ滞を主とする肝障害を起こすことがあるが、ALP の上昇は非常に軽度である。肝組織ではzone 3 を中心とした胆汁うっ滞像を認める。毛細胆管レベルでの胆汁分泌障害が原因とされる。稀ではあるが、経口避妊薬と同様にpeliosishepatis、肝腺腫、肝細胞癌を発症する症例がある。
○ ビタミンA(パルミチン酸レチノール)
高用量、長期に使用した場合に、非特異的な肝酵素上昇を認め、時に門脈圧亢進症状(腹水)を伴う。肝組織像では、星細胞(伊東細胞)の増殖と脂肪蓄積が見られ類洞が圧排されて狭小化する。
○ プロピルチオウラシル
甲状腺ペルオキシダーゼ阻害作用を持つ抗甲状腺薬で、投与開始後多くは1~3 ヶ月に肝障害を発症する。肝細胞障害型が多く、1999 年の全国調査では胆汁うっ滞型は無い。チアマゾールなど、他の抗甲状腺薬でも肝障害を発症するが、胆汁うっ滞型が比較的多い。骨髄抑制や無顆粒球症などを伴う重篤な症例の報告もある。主にアレルギー性機序によると考えられる。
表2.5 例以上報告のあった薬
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